2005年09月29日

小説「サラダとカルボナーラ」

 世の中にはよくわからないものがある。その最たるものが、食べ物を「フード」なんて呼ぶカフェにある「サラダランチ」だ。サラダが昼飯?鳥のエサじゃあるまいし、午後のパワーは大丈夫なんだろうか。

「そりゃあ、野菜食べたら綺麗になるからよ」
彼女は当たり前のように言った。「野菜を食べると血糖値が上がりにくくなるから太らないのよ。低インシュリンダイエットって言ってね。それから食物繊維が…」お得意のうんちくが始まる。その「サラダランチ」とやら。木のボウルに、ちぎった葉野菜と赤カブが散らしてある。中に見える白いものはタマネギだろうか。白いプレートには小さいパンが添えてある。…僕は彼女の話には上の空で、自分のカルボナーラが来るのを待っていた。

 このカルボナーラという食べ物を発明した人は誰だろう。生クリームで白いベールをまとったパスタに、卵の黄身とパルミジャーノレッジャーノがからまる。真っ白い雪原に散らされた黒胡椒の香りがパンチを与え、厚切りベーコンがあと口を演出。ねっとりと濃いソースにパンを浸すのも楽しみ。
この芸術的な食べ物に酔っていた僕は、ふと彼女の視線を感じた。

「……食べる?」僕は皿を前に押した。
彼女は“ふるふる”と首を振り、自分のサラダに視線を戻す。「このタマネギがね、血液サラサラになってお肌もキレイになって…」…また講釈が始まった。

 僕らは食後にデザートを頼むことにした。せっかくサラダランチでカロリーセーブしたのに、と思ったが「事前に野菜を食べておけば糖分の吸収率が下がるから大丈夫なの」、だそうな。どうやら野菜を食べるのは何か“おまじない”のような効力があるらしい。

「おいしい~!」クリームをほおばって微笑む彼女。ああ、今日はじめて見せる笑顔だ。サラダのおまじないがないとダメなのかな。
いつもその笑顔でいてほしいのに。
もっと見せてよ。僕のイチゴもあげるから。


at 23:58│Comments(0) 小説 

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