小説

2006年09月25日

ふるさとの地で

今までの友達の中で、いちばん才能にあふれた貴方。
繊細で鋭い感性を持ち そしてとても脆い貴方。

その鋭敏な感性のせいだろうか。私には想像できない程の辛い体験もしていて・・・苦しい苦しい時期もあったらしい。


現在は友達もいっぱいできたみたいで、大勢の飲み友達と朝まで飲んだり、オフ会に参加したりして楽しくやっているらしい。
飲み過ぎていないだろうか。本当は辛い事がいっぱいあって、それを紛らわせるために飲んでるんじゃないだろうか。


本当に 元気だろうか。
心から 笑ってるだろうか。

自分の中にある キラキラの光を忘れて
泣いたりしてないだろうか。


勝手な想像をしてみても、遠い空の私には なぁんにも出来ない。


私には無いものを いっぱい持っている貴方。
私に「妬ましい」という感情を教えてくれた貴方。


結局は ずっと貴方に憧れて、惹かれてたんだ。
もしかしたら、私のモチベーションの源は、ずっと貴方だったのかもしれない。


元気で。どうか元気で。
勝手に祈ってます。貴方の ふるさとの地で。


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2005年12月05日

小説「手帳」

来年の手帳を買った。
いつもは年明けに慌てて買うんだけど、今年は何となく早めに購入。たまたま立ち寄った本屋で見つけた、ビニール表紙の普通の手帳。

新しい手帳は、なんだか心が躍る。
汚れひとつないピカピカのカバー。新しい紙の匂い。真っ白なスケジュール。何の根拠もないけれど、来年は良い年になるような気がする。

パラリ。
表紙をめくると、まっさらな手帳は淡々と時を綴っていた。毎日毎日が同じ長さで、澄んだ川のように進んでゆく。
僕は後ろのページに、自分の名前を書いた。まるで魔法使いの契約のように、この手帳は僕のものとなる。一年間、僕と共に生きる道しるべ…。よく考えると、こんな小さいノートに振り回されて生きるのも不思議な話だな。

日付は今年の12月から始まっていた。
「ああ、もう使えるんだ…」
はやる気持ちが抑えきれず、僕は今月のスケジュールを書き込む。仕事、プライベート…スケジュール帳は少しずつ、僕の時間を刻んでゆく。ああそうだ、今月は彼女の誕生日じゃないか。そろそろプレゼントを選んで……当日はどこで食事しようか…。
仕事納めの日を書き込み、今年最後の月の行方が決まった。

パラリ。

ページをめくると、そこは新しい年。
真っ白なページ。まだ見ぬ新しい時。

僕は少し考えながら、まだ遠い日の予定を書き込み始めた。
大きなイベント、友達の誕生日……暦は春となり、夏を迎える…。タイムマシンに乗っているように、少しずつ来年が見えてくる。そして秋…冬…。来年も終わりに近づいてきた。

「あ…」

来年の12月。
また彼女の誕生日がやってきた。

僕は目を細めながら、その日に赤く、印をつけた。
来年は、何をプレゼントしようか-------------------。




いつもは年明けに買う手帳。
早めに買って良かった。
彼女の誕生日を二度も祝う事が出来たから------

来年も 良い年になりますように。


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2005年10月25日

小説「カフェオレ」

人が死ぬ映画は大嫌いだ。

彼女にせがまれて流行りの純愛映画を見たら…案の定、恋人が死ぬ話だった。
彼女のウルウル瞳は、まだ映画の余韻の中。あぁ忌々しい…。カフェオレ三杯飲んでも僕のイライラはおさまらないじゃないか、まったく。

「おまえなぁ…」
僕が話しかけても、濡れたまつ毛はうつむいたまま。
「ああいうの、作られた感動だろ?人が死んだら悲しいのは当たり前…そういうのを商売の道具にしてるわけよ?…なんで策略に引っかかるかなぁ…」
キョトンとした瞳がこちらを向いた。
「実際、ああいう話作るやつらって、ホントに大事な人に死なれた経験あんのか?実際を知ったら金儲けには使えないと思うんだけど」
僕は更に続ける。
「何で最近の純愛ものって人が死ぬんだろ…設定としてズルイんだよ、安易にお涙頂戴でさ……痛っっ!!
「バカ!」

僕の足に激痛と青アザを残し、彼女はふいっと横を向いてしまう。

…な、何か怒らせた?これだから女はワカラナイ。僕はマズイこと言ったんだろうか…。カフェオレおかわりしたら、ご機嫌なおるだろうか?
脳内グルグルの僕に、彼女はポツリと言った。


「好きな人が生きてる、なんて…普段あんまり考えないよね」

…は?

「再認識するために、ああいう映画があるんでしょ?」

…え…?

彼女はまた黙ってしまった。



「僕は…。」
何故か声が震える。
「僕はイヤだよ。好きな人が死ぬとか…考えるのもイヤだ。…だから…」

言葉を詰まらせる僕の手を、彼女はぎゅうっと握ってくれた。
「恐いよね…ほんと……」

ぎゅう。
僕も手を握り返した。

手を離さなければ、彼女も僕も死なないだろうか。ずっと一緒に居られるだろうか。


だから人が死ぬ映画は嫌なんだ。
カフェオレの湯気のむこうで微笑む君をみたら、なんだか僕も泣けてきたよ。

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2005年09月29日

小説「サラダとカルボナーラ」

 世の中にはよくわからないものがある。その最たるものが、食べ物を「フード」なんて呼ぶカフェにある「サラダランチ」だ。サラダが昼飯?鳥のエサじゃあるまいし、午後のパワーは大丈夫なんだろうか。

「そりゃあ、野菜食べたら綺麗になるからよ」
彼女は当たり前のように言った。「野菜を食べると血糖値が上がりにくくなるから太らないのよ。低インシュリンダイエットって言ってね。それから食物繊維が…」お得意のうんちくが始まる。その「サラダランチ」とやら。木のボウルに、ちぎった葉野菜と赤カブが散らしてある。中に見える白いものはタマネギだろうか。白いプレートには小さいパンが添えてある。…僕は彼女の話には上の空で、自分のカルボナーラが来るのを待っていた。

 このカルボナーラという食べ物を発明した人は誰だろう。生クリームで白いベールをまとったパスタに、卵の黄身とパルミジャーノレッジャーノがからまる。真っ白い雪原に散らされた黒胡椒の香りがパンチを与え、厚切りベーコンがあと口を演出。ねっとりと濃いソースにパンを浸すのも楽しみ。
この芸術的な食べ物に酔っていた僕は、ふと彼女の視線を感じた。

「……食べる?」僕は皿を前に押した。
彼女は“ふるふる”と首を振り、自分のサラダに視線を戻す。「このタマネギがね、血液サラサラになってお肌もキレイになって…」…また講釈が始まった。

 僕らは食後にデザートを頼むことにした。せっかくサラダランチでカロリーセーブしたのに、と思ったが「事前に野菜を食べておけば糖分の吸収率が下がるから大丈夫なの」、だそうな。どうやら野菜を食べるのは何か“おまじない”のような効力があるらしい。

「おいしい~!」クリームをほおばって微笑む彼女。ああ、今日はじめて見せる笑顔だ。サラダのおまじないがないとダメなのかな。
いつもその笑顔でいてほしいのに。
もっと見せてよ。僕のイチゴもあげるから。


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2005年09月25日

小説「方向指示器」

 バンドが解散して「方向性の違いで」と言い訳するシーンを見かける。どうせ喧嘩別れだろうとバカにしていたが、今ならそれも解る気がする。

 4年前だったろうか。出版社から脱サラした僕達は、数人で小さな会社を立ち上げた。「大きな会社が真似できないようなタウン誌を作ろう」、それが夢だった。
細い路地の奥の居酒屋、夫婦が運営する小さなカフェ…小さな本だからできる細かい取材。企画はマニアックに、切り口も大胆に…。お堅い上司や口うるさいスポンサーが居ないからこそできる本だった。
 それなりに評価もされた。解ってくれるスポンサーも付いた。「こんな本を待っていた」という声も聞こえた。そして何より、本屋の売り上げランキングで上位に食い込んだ事さえあったのだ。

 思えば、あの頃が僕達のピークだったんだろう。自分たちの作るものに自信があった。誰も真似できない本だと誇りを持っていた。そんなに儲からなかったけど、でも純粋に楽しかった。、キラキラした想いを形にしたい…眠る時間さえ惜しく感じた。

 すこし軌道に乗った頃から…皆の想いは変わっていった。「失敗しないように」「反感を買わないように」「無難な方向に」…最初の気持ちが、少しずつ溶けて行く。会社の規模が大きくなるにつれ、「他には無い本を作ろう」という夢は「売れる本を作ろう」という方向へ向かっていった。
「売れたいんだよ…」。リーダーの搾り出すような声に、僕は目を伏せた。4年前の仲間たちは、確実に自分だけの道を歩んでいる。
何も間違いじゃない。誰も間違っちゃいない。君も。僕も。


 「方向性の違いで」。僕は今日、この会社を去る。いつも新鮮な空気を吸いたいから。貧乏でも、バカみたいに夢が見たいから。
「こんなだから嫁さん来ないんだろうな…」自嘲気味に笑い、空を見上げる。

ちょっと曇った空は高かった。


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